『直観と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』「妄想」が世界を変える

直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN

直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN

 

 

従来の思考法は、大きく3つのタイプに分けられる。①カイゼン思考、②戦略思考、③デザイン思考の3つである。本書『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』が伝授するのは、 それら3つのどれとも異なる「第4の思考法」だ。筆者の佐宗邦威氏は、これを「ビジョン思考」と名付ける。すなわち「VISION = 妄想」からスタートする思考法である。

『イシューよりはじめよ―知的生産のシンプルな本質』という本をご存じだろうか。ヤフーCSO安宅和人氏の書いた「ロジカルシンキングの教科書」とでも呼ぶべき名著である。この本のタイトルの通り、知的生産とは「ISSUE = 問題」からスタートするのが普通である。

しかし、中には「妄想」からスタートして、世界を変えてしまう、そんな"普通じゃない"人もいる。イーロン・マスク (スペースXのCEO)も、その一人だろう。イーロン・マスクがスペースXを立ち上げたのは、「論理」や「戦略」に導かれたからではない。「2035年までに人類を火星に移住可能にする」という「妄想」を実現するためだ。

ただし、ビジョン思考とは、イーロン・マスクのような天才企業家の特権ではない。誰でも鍛えれば出来る。そのための具体的なメソッドを伝授してくれるのが、本書『直感と論理をつなぐ思考法』である。

ビジョン思考は、4つのステップからなる。1ステップ目は「妄想」だ。面白いことに、「10%成長」よりも「10倍成長」を目指した方が「楽」だという。「10%成長」ならば、努力で何とか出来てしまう。例えば、10%長く残業するという「頑張り」だけで、達成できてしまう。しかし、「10倍成長」となると、単純な努力ではどうにもならない。そうなると、根本的に別のやり方を考えるしかない。「努力」の呪縛から解き放たれるのだ。また、自力で達成するのではなく、世の中に存在するあらゆる資源を活用しようという発想になる。だから、結果的に「10%よりも10倍の方が楽」になるのだ。

次の2ステップ目は「知覚」だ。私たちは「単純化しないと理解できない」と考えがちである。しかし、以下の一文にあるように、これは思い込みに過ぎないのだ。

「『単純化しないと理解できない』なんて誰が決めたの? 複雑なものを複雑なまま吸収し、自分の理解をつくっていくーそんなことは赤ちゃんだってやっているのに」

「知覚力を磨く」と聞いて、少し身がまえてしまっている人は、この言葉をよく味わってみてほしい。これはネットワーク理論を研究する複雑系研究者の佐山弘樹氏から直接聞いて、僕自身もハッとさせられた言葉だ。

佐宗邦威著『直観と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』p141より引用

複雑な物事を、ありのままで知覚すること。また、我々が頼りがちな「言語での知覚」や「視覚での知覚」だけでなく、五感をフルに使って知覚すること。それがビジョン思考に不可欠な「知覚」の方法である。そして、これらの「知覚する力」は、デッサンや絵画の模写によって鍛えられるという。

3つ目のステップは「組替」だ。これは凡庸さを克服するために必要な段階だ。最初のアイデアが独創的である必要は無い。このアイデアをもとに、「あたりまえ」を疑ってみることや、類似する物事とつなげてみること(=アナロジー思考)といった「組替」の作業によって、独創的なアイデアへと磨き上げることが出来る。

そして最終ステップが「表現」、つまりアウトプットすることだ。以下の話が、アウトプットの重要性を知る上で面白い。

「マシュマロ・チャレンジ」という有名なゲームをご存じだろうか?マシュマロとスパゲッティとマスキングテープだけを使い、3~4人のチームで制限時間内に「できるだけ高い塔」をつくるというゲームだ。このゲームでのパフォーマンス(塔の高さ)をいろいろな集団ごとに比較すると、建築家とエンジニアのチームや、経営陣(CEOと管理責任者たち)のチームはそれなりの結果を出している一方、第3位になったのは「幼稚園児」だ。会社を経営するような人であっても、CEOだけを集めたチームになると、幼稚園児に敗北している。弁護士やMBA学生に至っては惨憺たる結果だ。

佐宗邦威著『直観と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』p223より引用

幼稚園児は初めから手を動かしながら考えるのに対して、MBA学生たちのチームは戦略を構想するところから始め、ラスト1~2分になってようやく手を動かし始める。そうなると、たいていは戦略通りにはいかず、塔が崩壊してしまうのだ。このゲームから得られる教訓は、頭で考えるだけでなく、手を動かして「プロトタイプ」を作ることの重要性だ。不完全でもいい。まずは、何かしらのアウトプットをしてみることが、ビジョン思考においても、大切であるそうだ。

本書では、これら「妄想」「知覚」「組替」「表現」の4つの段階について、その能力を鍛えるための具体的なメソッドが紹介されている。クリエイティブな仕事がしたい、と考える人にとっては、必読の一冊といえるだろう。そして、AIが急速に発展する中、もはやクリエイティブな仕事以外には、人間には残されないともいわれる。つまり本書は、「全人類にとって必読の書」と言い換えても、過言ではない。

 

 

[参考] マシュマロ・チャレンジに関するTED talk

面白く、かつ示唆深い。たった7分程度なので、ぜひご覧頂きたい。

www.ted.com